psychology

近年、心理学の内部においては学会発表、事典、概論書などで取扱われている項目は依然として感覚・知覚・記憶・思考・学習・発達・人格という人間行動の一側面についての実験心理学的研究の成果にその大半が占められており、確かにかかる項目についての研究の発展には注目に値するものが多いこともまた事実です。あるものは新しい方法論の試行であり、それは隣接科学のそれに触発せられたものであることが多いのですが、そこに数理心理学なり、生理的心理学などの展開を見得ます。ここにも見られるように今日の研究者には積極的な視野の拡大と課題の多角的追求が意欲的に行われていることです。つまり自己の単一の専門領域において得られた理論なり、観点を大胆に、他の領域、課題に拡大して統合的な知見を求めたり、さらには実践分野の間題解決に活用しようとする意欲は極めて高く、前者の例には認知・知覚学習・概念形成などの俳先があげられ、後者のものとしては教育・臨床・社会・産業のいわ ゆる諸実践心理学への寄与として見ることができるます。
現代心理学の性格を決定するものとしての諸実践心理学はいわゆる境界科学として成立し、発展してきたものです。社会心理学、産業心理学が社会諸科学とのそれとして、臨床心理学は精神医学、精神分析学などとの関連を重要な契機としたものであり、また科学としての心理学の歴史とともに古い教育心理学は心理学がその実践的意義を教育に求めたところに成立した分野です。確かにその成立の初期段階においては伝統心理学との間に基礎、応用に近い関係があったことは否定できませんが、伝統心理学が自然科学的認識を墨守することにおいて単なる理論科学に止まらんとすることに反発し、進んで現実の問題解決と取り組むことから自らの観点と方法を獲得していったのが実践心理学です。近年の実践心理学の発展のテンポは著しくそこには相互の再統合も企図され、たとえば教育社会心理学、社会臨床心理学とも呼び得るさらなる新しい実践心理学を胎動しつつあります。地域的精神衛生運動はこの一つの動向を示すものであり、これの動向には注目すべきものがあります。従来の個人レペルでの精神衛生運動が地域社会レベルでの疾患の予防を前提とする必要から臨床心埋学、社会心理学、教育心理学のもつ知識と技術の統合を不可欠とするものです。しかしこれは単に疾患の予防に限定されず、人間の形成はつねに現実の住居地域を唯一の生活環境としていることにおいて、あらゆる人間の間題を地域の間題として解決していくことが重要なこととなります。この分野の研究にはコミュティ心理学という名称もあります。家計や環境の問題は伝統心理学においてはほとんど無視されてきた分野であるというと誰もが驚くことですが、そこでは特定の側面からの事象研究に終始する立場をとることから単に意識や行動の規定要因としての環境のみが重視されました。確かに個体によって瞬時的にうけとられた限りの環境を刺激としてのみ行動が発生することは間違いないとしても、選択の範囲は常に特定の土地や地域的環境に規定されています。その意味において物理的、地理的、生物的、生理的、社会的、文化的ないわゆる地域的環境が現実的に個体の持続的な生活行動を規定しているということは否定できません。現実的な環境のもつ条件の強度なり、その変化と動揺、またかがる条件の有無は直接個体の行動の形態なり、パターンを規定していくことになります。前者が主として個体に意識せられた環堵であるに対し、地域的環境はいわばその素地となるものとして意識されず、しかも持続的に個体の生活環境となっていくことから現実的な人間形成、精神発達研究に最も重要な謀題ということになります。かかる人間と環境の間題を主題とする分野は環境心理学あるいは生態掌筒心理掌と呼ばれている。ヒユーマユスティック心理学と呼ぶものも以上の実践心理学とともに伝統心理学と対立しつつ、しかも最も期待されている分野です。この立場は心理学を何よりも人間性の科学であるという原点に立って考えることにより、従来の単なる行動学としての心理学を過克せんとする。たとえば伝統心理掌が殆んど無視してきた愛、創造性、自我、自己実現、自発性、勇気、価値追求性、責任感、金銭欲といった人間の基本的な存在性の全てに対して最大の関心をもつものです。したがって特定の個人の直接経験を全的にとりあげることを要求します。それは当然伝統心理学と対立することになり、この立場に対する徹底的な批判を根底に持つことになります。その機械論的困果論、原子論的分析主義、還元主義、没価値主義、普遍性追究の立場を批判し、これを否定するのです。この心理学の主張する立場はあるべき心理学の性格をその原点において間いかけていることにおいて貴重なものですが、これの提起が生態学的心理学などと同様に十年にもならないことから未だ統一した観点や方法の確立には至ってはいません。しかし次々に提起される新しい実践心理学の動向は心理学の将来に明るい希望を開くものとなることは間違いありません。

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